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鳥取家庭裁判所 昭和50年(家)163号 審判

国籍 アメリカ合衆国ニュージャージィ州

住所 鳥取市

申立人 ヘンリー・マイケル・メッシー(仮名)

国籍住所 右に同じ

申立人 エラフィッツ・リー・メッシー(仮名)

本籍・住所 鳥取市

未成年者 下山康二(仮名)

主文

申立人らが未成年者下山康二を養子とすることを許可する。

申立人らと養子縁組後の未成年者の氏名「下山康二」を「マイルスネーダーメッシー」と変更することを許可する。

理由

申立人らは主文と同旨の審判を求め、その申立の実情として述べるところは、申立人夫婦は子があり生活にも恵まれているが、未成年者は施設に収容されており必ずしも幸福とはいえないので、申立人夫婦の宗教上の信念でもあり、未成年者を養子としてその幸福を図つてやりたい。また未成年者が養子となつた後においてはアメリカ人夫婦の子らしい氏名に変更してやりたいというにある。

よつて按ずるに、家庭裁判所調査官谷東武之作成の調査報告書及び鳥取県中央児童相談所の児童記録によれば、申立人ヘンリーは宣教師で布教活動等に従事し、申立人エラフィッツはその妻であつて、二人の間には五歳の女児と三歳の男児があるが、不幸な子供に家を与えてやりたいという宗教的信念から、父母も知れず施設に収容されている未成年者康二を養子とせんとするに至つたもので、すでに昭和五〇年三月一七日以来未成年者を手許に引取り養育中であり、将来はできれば未成年者に大学教育を受けさせる意向であること、申立人らは夫婦あわせて月収約二〇万円位ありその他に貯金もしていて経済的に不自由はないこと、申立人らの二人の子供も未成年者が引取られてきて喜んでいること、及び鳥取県中央児童相談所長も施設聖園天使園の長が未成年者の縁組を承諾するについて許可しており、父母ともに不明で身寄りのない未成年者にとつて申立人らの養子となることはその利益にかなうものであることが認められる。ところで本件養子縁組の準拠法としては法例一九条により未成年者の本国法である日本国民法と申立人らの本国法であるアメリカ合衆国ニュージャージィ州法を参照すれば足りるものと解すべきところ、右州法中養子縁組に関する部分に照らしても、本件養子縁組は適法になしうることが明らかである。従つて本件養子縁組許可の申立は理由があり、これを許可するのを相当と認める。

次に養子縁組後未成年者の称すべき氏名については、親子の法律関係の問題として法例二〇条により父の本国法であるアメリカ合衆国ニュージャージィ州法によるべく、同州法の養子縁組法には養子の氏及び名の変更に関する直接の規定はないが、養子決定をする裁判所は養子決定にあたり養子の氏名を養子決定申立書に記載されている新氏名に変更することを認める権限を有するものと解される。そしてニュージャージィ州裁判所の有する右権限は、氏の変更については、日本国民法における子と親との氏が異なる場合のわが国家庭裁判所の有する氏変更許可の権限に、また名の変更についてはわが国家庭裁判所の有する名変更許可の権限に類似するものと考えられるので、未成年者の氏を養親と同一の氏に、また未成年者の名をアメリカ人らしい名に変更するにつき反対すべき特段の理由のない本件においては、当裁判所は、子の氏及び名の変更許可の権限によつて、右ニュージャージィ州法を適用して、未成年者の氏名「下山康二」を「マイルスネーダーメッシー」に変更することを許可すべきものと解する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡本元夫)

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